20年分の思い、15年分の心



拝啓

やわらかな光の降り注ぐ時間が、日に日に増してまいりました。
ようやくの春ですね。お変わりございませんか。

2001年6月、北海道神宮「直心亭」におきまして坂本直昭さんの紙展が開催されましてから、今年で20年になります。
昨年からの新型コロナウイルスによる人々の心身の疲弊を癒すため、皆様が心穏やかに、少しでも明るくお過ごしになられますように「紙舗直 坂本直昭 紙展」を計画いたしております。

2001年の紙展では、当時 直さんは北海道沿岸を車で走られ、土地土地の資料館や埋蔵文化財センターを訪れて、縄文土器をスケッチしておられました。ご自身の手の中、体の中にゆき渡った古人の思いの手跡を記すように、北方の文様を白い手漉き紙の上に表現され展示されていました。
私はこの時の紙展が直さんの紙とのはじめての出合いとなります。
この紙展を拝見いたしまして私の生きる道は変わりました。それより5年間、国内外で開催されました直さんの展覧会の全てを訪れて、作品の前に身を置かせていただきました。そして、この素晴らしい紙を皆様にいつでもお伝えできますように、2006年4月、紙舗直さんの紙だけを扱う店「紙のめぐみ」を開店いたしました。住宅地に建つ小さな店ながらも、お客様が訪れて下さいます。

一年が経ちますコロナ禍におきまして、人々の心は知らず知らずのうちに元気を失くしているのではと拝察いたします。正気を保とうと努め、直さんの紙から元気をいただこうとする私自身がここにおります。
直さんの染め描く紙には 力 があります。
コロナ以前には毎年、白い紙を携えて海外へと、また日本中の岬から岬へと旅をされて、今でも夏至冬至春秋の彼岸にはご先祖様の地、高知の工房での夜明けには空の下で、そして、日々、染描し続けておられます。
紙を漉く人のこと、必要とされる人のこと、なぜこの世に紙が必要であるか、いつも考えておられます。
そして、大いなるものを、森羅万象を敬われ、そのお心を持って紙と対峙されます。そのご意志がこの紙の中には存在して、私たちは感応するのだと思います。大いなるものや自然を大切に感じている私たちは、今のこの世の中に、静かにあかりを灯し続けてくれる直さんの作品を必要としているように思います。

2001年6月の神宮の風を、今でも鮮明に覚えています。
清しい神宮の大気の中、主催された米山千恵子さん (当時私は、米山さんの元でお仕事をさせていただいておりました) がしつらわれました野の草花と、染紙の持つおおらかな気が、直心亭へ足を運ばれる人たちを迎えて下さいました。
15年紙のめぐみを営ませていただきながら、いつも「あの直心亭でもう一度、紙展を」と胸に思ってまいりました。今がその時ではないかと思います。

北海道神宮には自然の樹々の緑が色濃く残っていて、皆様の憩いの場となっています。
そこに建つ「直心亭」での20年ぶりとなります紙展です。
このコロナの状況の下、紙の持つ穏やかさを皆様と共に、神宮の自然の中で楽しむことができましたらと思います。

「皆様におだやかな心を、元気を、」
そのことを神様が喜んで下さればと思います。

今なお、不安定な状況には変わりございませんが、少しずつ少しずつ、光差す方へと向かいたく思います。

それでも、やはり皆様のご健康が一番大切です。このように計画はいたしますが、無理を通さず進めてまいりますので、その節にはお力をお貸しいただけましたら幸いでございます。

どうか皆様の日常が少しでも心穏やかなものとなりますように、謹んでお祈りいたしております。

本日、4月19日、紙のめぐみは16年目を迎えることができました。
これまでお心添えいただきました皆様とお客様のおかげ様に存じます。
心よりありがとうございます。
これより先の新しい時代へ、心新たにいたします。
これからもご指導いただけますよう、どうぞよろしくお願い申し上げます。

紙のめぐみ
  岩根めぐみ


人、想、歩、行、そして心

開店の日、夜明けの刻、
文字を染め描いてくださいました直さんと。






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