柵の向こう側

フレシマ、
今年の3月、雪残る朝日のフレシマを見に、夜通し車を走らせた。
野鳥保護区となったその海辺のその手前には、行き止まりの柵に鍵がかけられている。
十数年前に訪れた時にも、柵のこちら側から、『 直さんのフレシマ 』に思いを馳せた。
そして、その柵を後にして根室の岬からフレシマを望んだ。
この3月もやはりフレシマの海辺には辿り着けないという思いから、そこへと続く道を横目に、真っ直ぐに岬へと向かった。

翌、4月に直さんからの嬉しいお知らせ。
コロナ以前の毎年のこと、白い紙を携えて海外の各地、日本中の岬へ染描の旅をしておられた直さんからの嬉しいお知らせ。
「 紙を持ってフレシマへ行って来るよ」

別当賀の駅からのフットパスと柵の鍵を借りる事ができて、海へと辿り着けるのだそう。
近くから臨むことが叶わなくなって久しい、あのフレシマの海へと辿り着けるのだそう。

直さんがフレシマを幾度も訪れ、その浜を歩かれた日々から40年余り。
そこには野鳥保護のための柵がたてられ、テトラポットが並び、目に映る景色は変わった。
ただ、そのようなものは大したことではなくて、直さんの心フレシマは何も変わることなくそこに広がっていたそうです。

私は自分のことのように嬉しかった。
ただ歩くしか出来なかったという若かりし頃の直さんが、今、紙と共に、そのフレシマへと還るその気持ちに思いを寄せると、嬉しくて涙が出た。

この夏、フレシマの歌と思いと染描紙の写真を収録されたCD冊子が作られました。
当時の直さんが浜を歩き生まれた歌、そして今の思いを朗読されています。


9月の初め、私はフレシマを歩いた。
柵の向こう側を、直さんのフレシマを歩いた。
「直さんの紙」と出会い、紙と歩き出し、歩いて来た道、歩いて行く道を思った。直さんを思った。
曇り空の光が嬉しかった。波が、風が、嬉しかった。


『 フレシマ 』を形にいたしました。
謹んでご案内申し上げます。





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