心にともしび、
旅の終わりに
ブローニュ=シュル=メールはフランスの北の海、30km先にはイギリスがあり、ここにほど近い緑多い古き町 コンデット。
300年建つ石の家。揺らめくガラス窓が美しい。屋根から垂れ下がる藤に、アイリス、ライラック…と、お家の周りに薄紫が広がります。
今は亡き心の親友、Nadine Rebault (ナディーヌ・リボー) 、彼女が生きたこの場所。
鏡に映るこの窓から、心の窓から、外の世界へ、宇宙へと繋がって、詩を、小説を、作品を作り続けました。
縄文を愛し、オホーツクを旅し、いつの日か北海道に暮らすと語りました。
直の紙を愛し、紙のめぐみにいつも額の装丁をお任せくださいました。
大阪、東京、つくば、紙のめぐみで、フランスはリール、モントルイユで、手紙でメールで、言葉を必要としないことばを、たくさん交わしました。
2020年の1月、彼女が亡くなったことをご主人ティエリーさんより知らされました。
2年が経ち、パリから2時間半、ブローニュ=シュル=メールの駅に降り立ち、迎えてくれた彼と抱き合った時に、私は始めて、ナディンさんが亡くなったことを実感しました。
今、彼女が見ていた窓から朝を迎え、庭の草花や果実を思い、鳥の声と彼女の眠る教会の鐘を聞き、移ろいやすいフランスの空を眺め、三方の壁と本棚に積み重なる本に写真集、壁や棚上に飾られた数々の額縁、溢れて床に並んだレコード、並ぶ小さな貝殻や土偶たちに燭台……、そこここに彼女が居ます。
静かに過ごした夜と、哀愁のスパニッシュの夜。家族の即興演奏と歌声。暖かい薪ストーブと、たくさんの直さんの紙のあかり。どれもが胸に沁み入る瞬きでした。
私たちは元気です。
また来るね。
心は繋がっています。
直の紙が繋いでくれた友情です。
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